障害者とアートで仕事をするデザインスタジオ

アートを通じて
「こんにちは」!PARTNER 11
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA/滋賀
(2019年 取材)

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA - photo by 大⻄暢夫

障害のある人らによる造形表現、独学で創作をする人の作品、現代アートなどをともに紹介し続けている「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」(以下、NO-MA)。昭和初期の町屋を改築した小さな美術館は2004年に開館しました。2014年、開館10周年を迎えたNO-MAは大規模な展覧会、「アール・ブリュット☆アート☆日本」展を開催しました。展覧会場を近隣の施設や町屋にも広げ、その運営ではボランティアスタッフが活躍。その後の取り組みに変化をもたらすきっかけとなりました。

「アール・ブリュット☆アート☆日本」展 - photo by 大⻄暢夫

NO-MAを運営するのは社会福祉法人グロー[GLOW]〜生きることが光になる〜です。福祉施設の運営や相談支援事業などに加え、NO-MAをはじめ障害のある人の様々な表現活動の支援も行っています。2019年、取材の際に話を聞いたのは学芸員の横井悠さん。

学芸員の横井悠さん

自分の言葉で伝えたい

「アール・ブリュット☆アート☆日本」展には80名を超えるボランティアが参加しました。展覧会のサポートをするのは初めてという人も多く、参加者が楽しく安心して活動できる環境づくりに力をいれたそうです。例えば、マニュアルは写真を多用し、作品の解説など必要な情報をわかりやすくまとめました。活動日誌には職員も毎日コメントを書き込み、不安や疑問にはすぐ答えるようにしました。参加者自身が、会場で何度も作品を観て、来場者の感動の声やじっくり作品に見入る様子を目の当たりにしました。そうするうちに、「この絵を描いたのはどんな人だろう」「施設ではどんな風に暮らしているんだろう」とさらに興味が深まり、自分自身の言葉で作品を紹介し始める人もいたそうです。2014年以降、募集する機会が増えた展覧会ボランティアに、「何度も参加してくださる方もいます」と横井さん。さらに興味を深めてもらいたいと、2018年には「“ボーダレス・エリア”近江八幡をみんなで作るプロジェクト」をスタート。会場運営に加え、展示のサポート、記者クラブでの情報発信という、多様なかかわり方ができるようになりました。

“ボーダレス・エリア”近江八幡をみんなで作るプロジェクト

「感じる」アート

新しいプロジェクトでは、ボランティアとしてのかかわり方を広げる一方で、障害のある人の鑑賞について考えることにも取り組んでいます。2018年に行われた「以“身”伝心 からだから、はじめてみる」展では、主に視覚障害のある人に向けた情報保障を展示に取り入れました。情報保障とは、何らかの障害で情報を得られない人に、代替手段を用いてその情報を伝えることです。手で触って鑑賞できる焼き物や布でできた人形を展示したり、写真や絵画作品の触図(表面に凸凹があり直接触れられる図)を設置したり。抽象的な絵は触図が作れないため、作品をモチーフとして物語を創作し、それを朗読した音声を会場で流しました。

「以“身”伝心 からだから、はじめてみる」展 - photo by 大⻄暢夫

会期中に開催した視覚障害者、盲ろう者との鑑賞会では、障害のある人と通訳や介助者、一般の参加者がともに会場を巡りました。目の見えない人の手に、ガイドとなる人が手を添えて触図をなぞりながら解説をする。「写真作品が一番おもしろかった」という視覚障害者の声に、横井さんは「見えない人にも作品の魅力が伝わった。触図があったからこそ見えない人と見える人のコミュニケーションが生まれた」と感じました。盲ろうの参加者は、古い建物の匂いから展示空間そのものにも興味を持ちました。見える人はアイマスクをして、手や耳、皮膚など視覚以外の感覚をフルに使って鑑賞しました。自分がイメージしたものと実際に目にした作品との違いに驚く場面もあったそうです。この取り組みを通して、横井さんは「目で見るだけではない“体感”する鑑賞」が障害の有無にかかわらず、展覧会の楽しみ方を広げることにつながると考えています。

「どうすれば伝わる?」 - photo by 大⻄暢夫

「どうすれば伝わる?」

障害のある人の作品鑑賞を考える時に、「これをやっていれば完璧という方法はありません」と横井さんは言います。例えば視覚に障害のある人に向けて触図を作る場合、線の太さを再現できたとしても、線の勢いや強弱、色は伝わりません。視覚障害と言っても、かつて見えていた人と、生まれた時から見えない人では、色に対する想像力も違います。そもそも展覧会の情報をどう伝えたら、視覚に障害のある人が「NO-MAに行ってみたい」と思うのか。

視覚障害だけでなく、様々な障害のある人々にもNO-MAに来てもらいたい

今後は「視覚障害だけでなく、様々な障害のある人々にもNO-MAに来てもらいたい」と横井さん。単なる情報保障を取り入れるのではなく、「例えば、文字情報が一切ないとか、聴くことが中心の展覧会」など展覧会の意図や作品一つひとつの魅力を伝える方法を見つけて行きたい。そうすることで、障害のある人だけでなく、NO-MAを訪れる全ての人にとって、より作品の魅力が伝わる展覧会が作っていけるのではないかと感じています。「来場者と作品について話ができるのはNO-MAの強み」「人と違えば障害と言われるが、障害ではなく個性と言う社会になれば…」。これらは「“ボーダレス・エリア”近江八幡をみんなで作るプロジェクト」に参加したボランティアの声です。作品に魅力を感じ、それを誰かと語り合うことで、障害や障害のある人について考えることにつながったという声が多くあったそうです。今回の取材を通して、作者として、鑑賞者として、ボランティアとして、いろんなかかわり方ができる場であり続けたいという思いを感じました。

〈まなび〉「目で見る」だけがアートじゃない!

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA

ボーダレス・アートミュージアムNO-MAは、滋賀県近江八幡市の重要伝統的建造物群保存地区にある美術館です。昭和初期の町屋を改築し、2004年6月に開館しました。社会福祉法人グロー(GLOW)が運営しています。障害のある人の表現活動を一般のアーティストの作品と共に並列して見せることで「人の持つ普遍的な表現の力」を感じていただき、「障害者と健常者」をはじめ、様々なボーダー(境界)を超えていくという実践を試みています。

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