障害者とアートで仕事をするデザインスタジオ

フツウを
揺さぶるっ!PARTNER 15
NPO法人 スウィング/京都

京都・上賀茂の閑静な街に突如として現れた「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー」。ブルーのスーツに身を包んだゴミ拾いヒーローです。「ゴミコロリ」と名付けられたこの活動は、2008年に「NPO法人スウィング」が始めたもの。当初は不審者に間違われたこともありましたが、今では街の人気者です。スウィングは「Enjoy! Open!! Swing!!!」を理念に掲げ、2006年にNPO法人として活動を始めました。働くってどういうこと? 福祉ってなに? 様々な活動を展開しながら、生きづらさをユーモアで打ち返し、普通を揺さぶり続けています。

京都の箱作り プロの仕事を見よ

京都の箱作り プロの仕事を見よ

スウィングが設立当初から大事に続けている仕事の一つに、箱折りがあります。その名も「shiki OLIOLI」。紙の箱(紙器[しき])を折って組み立てる仕事です。京都銘菓が入る箱を、毎週数千作って納品しています。「shiki OLIOLI」の部屋では、職人級の技で、素早く完璧に、次々と完成した箱が積み上げられていきます。線に沿って折る、角をきれいに合わせる、紙を挟む……。一見すると少し練習すればできそうな作業に見えますが、リズミカルに素早く美しく組み立てるのは簡単ではありません。職人級のメンバーが多くいるのは、スウィングに加わる以前に通っていた施設で箱折りをやっていたからだそうです。「そうして身につけた技術は財産のような物。京都の地味だけど魅力がある仕事」だと代表の木ノ戸昌幸さんは言います。

いろんな人が土産として買っていくお菓子の箱を組み立て続けています

京都の四季折々を楽しむために、全国各地・世界各国から訪れる観光客。いろんな人が土産として買っていくお菓子の箱を組み立て続けています。京都銘菓を支える仕事であり、一つ出来上がるごとに達成感も得られる。メンバーは職人級の技で自信を持って仕事をしています。地味な仕事の魅力を伝えるために、箱折りワークショップを開き、スウィングの見学者に体験をしてもらうことも。メンバーから指導を受けて折ってみると、その難しさを実感し、職人技に改めて驚く人が多いそう。得られるお金は大きくありませんが、「お金は大事、だけどお金だけじゃない。魅力ある仕事を大切にしたい」と木ノ戸さんは考えています。

「shiki OLIOLI」の魅力を伝える映像、『紙器折々-shiki OLIOLI-』予告

お金、だけじゃない

お金、だけじゃない

人が働くのは、お金をたくさん稼ぐためだけでしょうか。「お金のためだけではない」と考えるスウィングでは、働くことを「人や社会に働きかけること」と定義しています。「ゴミコロリ」や「京都人力交通案内『アナタの行き先、教えます。』」は、まさに人や社会に働きかける活動です。2022年3月には開催161回を迎えた「ゴミコロリ」は、着々と活動回数を増やし続けています。地域の人との交流にとどまらず、今では全国各地に「ゴミコロ支部」が設立され、ゴミブルーが出張する機会も生まれています。「京都人力交通案内」は、京都観光を密かに支える活動です。京都に暮らす人でも複雑すぎて覚えきれないバスの系統と路線図。それをほぼ全て暗記しているのがメンバーのQさんとXLさんです。2人は、木ノ戸さんとカメラマンと一緒に京都市内の観光名所に近いバス停に出没し、困っている人に目的地までの乗り方を案内しています。回を重ねるごとに認知され、新聞や雑誌で紹介されたことも。最近では、運転手さんから「ご苦労様です」「ありがとう」と声をかけられるほど有名人になりました。どちらもお金は得られませんが、スウィングの考え方やあり方の肝となるものです。

お金にまつわる普通をくつがえす展覧会を開催

創作活動をする「オレたちひょうげん族」でも、お金にまつわる普通をくつがえす展覧会を開催しました。2018年の「Enjoy! Open!! Swing!!! Vol.5 全部あげちゃう♡♡♡」では、作品を売るのではなく、その名の通りあげちゃう展覧会でした。「自分の作品、表現したものがお金を介さずにもらわれていくのを見て、作者もうれしかった。いろいろな人の暮らしにひょうげん族の表現が入り込んで、心豊かになればいいな」と木ノ戸さん。人や社会に働きかける「働き」は、スウィングで活動する人々自身にも働きかける活動になっています。

OPEN the DOOR!

OPEN the DOOR!

「楽しむこと、開くこと、揺れること」を大真面目に考え、実践し続けているスウィング。人や活動を開くことに加え、事業所をより「開くこと」について模索を始めています。様々な活動にはユニークな名前が付けられていますが、すべて福祉の制度に則って行われている事業です。現在活動しているメンバーは、それぞれ何らかの障害があります。「障害認定を受けて、障害者という立場に置かれることに抵抗感を持つ人もいます。そういう人が、利用者にはなれないからスウィングに来られないという状況から脱して行きたい。それにそもそも『福祉』というのは障害者や高齢者だけのためのものではなく、『幸せに心豊かに生きる』という、万人にとっての権利のようなもの」と木ノ戸さんは言います。そこで、考えたのが制度上の利用者に限らず、誰でも来られる「図書館」という開き方です。「図書館のふり」をすることで、誰もが気軽に訪れる場所になる。本を読んでも読まなくても自由に過ごせる場所になる。そこでスウィングそのものを図書館にしてしまい、2021年9月1日「スウィング公共図書館」としてオープンしました。

利用者自身がアトリエについて話す機会や、大学の講師として講義を行う機会もある

見学者を受け入れることも「開くこと」の一つですが、木ノ戸さんは「見学は外から見ているだけなので、中に入って体験してもらいたい」と言います。取材に行くと、最初に案内されたのは「オレたちひょうげん族」の部屋。まずは、メンバーとのカードゲームに参加することからスタートです。箱折り体験では、職人がビシッと指導してくれます。短い時間ですが、少しだけ中に入ってみることで「Enjoy! Open!! Swing!!!」を感じることができました。

〈まなび〉本質を掴み、ユーモラスに伝える

NPO法人スウィング

2006年、京都・上賀茂に産声をあげた、障害のある人ない人およそ40名が働くNPO法人。絵や詩の芸術創作活動「オレたちひょうげん族」、全身ブルーの戦隊ヒーローに扮して行う清掃活動「ゴミコロリ」、ヘンタイ的な記憶力を駆使した京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」などなど。「べき」やら「ねば」やら既存の仕事観・芸術観に疑問符を投げかけながら、世の中が今よりほんのちょっとでも柔らかく、楽しくなればいいな!と願い、様々な創造的実践を繰り広げている。

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