障害者とアートで仕事をするデザインスタジオ

居心地のよさの
秘密とは?PARTNER 04
しょうぶ学園/鹿児島

しょうぶ学園のご紹介

JR鹿児島中央駅から車で約30分。小高い丘の住宅街に「しょうぶ学園」はあります。敷地内には「パスタ&カフェOtafuku」や「パン菓子ポンビ堂」「そば屋 凡太」といった就労継継続支援B型事業のレストランやクラフトショップがあり、地域住民をはじめ、県外や海外から多くの人が訪れる外に開かれた施設です。一方、布・木・土・和紙の創作活動を行なう「工房しょうぶ」の作品は、工芸や現代アートの世界から高く評価され、国内外で展覧会を行なっています。

機能型の施設「しょうぶ文化芸術支援センター《アムアの森》」

2019年9月には多機能型の施設「しょうぶ文化芸術支援センター《アムアの森》」をオープンするなど、その活動の幅は着実に広がっています。今回は2019年12月に自身初の著書が出版され話題となっている施設長の福森伸さんにお話をお聞きしました。

特別な環境を整えながら、誘発する。

「しょうぶ学園」は1973年に知的障害者厚生施設として誕生。現在は、自立支援事業(ささえあうくらし)・文化創造事業(つくりだすくらし)・地域交流事業(つながりあうくらし)の3つの分野で、さまざまな活動を行なっています。施設長の福森伸さんは1983年より「しょうぶ学園」に勤務し、工芸・芸術・音楽など、多岐にわたる活動をプロデュースしてきました。

「しょうぶ学園」施設長の福森伸さん

「私はビジョンを掲げてこう構成したいという図式をつくれるタイプではありません。長年の歴史の中でさまざまな要素が混ざり合ってソースができあがってきたのが今のカタチなんですよ」と福森さんは言います。そして、その活動の中で大切にされてきたのは「身の丈を知る」こと。一人ひとりの存在を認め、背伸びをすることなく自然体で活動できる環境を整えることで、結果的に創造力に富んだ作品が生まれています。

アフォードされる機会がたくさんある環境

そのような環境づくりをしていく上で福森さんが意識しているのは、アフォード(誘発)される環境であること。「森がある、ロバの声がする、木から葉っぱが落ちる、風が吹く、川に魚がいる、気持ちいい陽射しが差し込む——そういった環境によって、人々は行動をアフォードされます。ベンチがなければ立ったままですが、そこにベンチがあれば腰を下ろすでしょう。そのようなアフォードされる機会がたくさんある環境は、彼らにとっても、もちろん私たちにとっても、居心地のいい場所であるはずです。

行く、ではなく、来てもらう

行く、ではなく、来てもらう

近年、障害者が施設の外に出て社会と触れ合う機会を持つことが増えていますが、「しょうぶ学園」では人々が施設を訪れる機会をつくることに取り組んできました。「外に出る活動には必ず『私(職員)たちと一緒に』という前提が伴います。私たちはそれをめざしているわけではありません。地域住民をはじめ、人々にとって、ここが訪れたい場所であれば、自ずと社会と触れ合うことができます。

行ってみたい、また訪れたいという思い=人々の欲求

我々がインクルーディングしていくという考え方が根底にあるので、敷地内にレストランやショップをつくってきました。行ってみたい、また訪れたいと思ってもらえる場所にならなければ、福祉は自立できないと私は考えます」と福森さん。行ってみたい、また訪れたいという思い=人々の欲求です。その欲求があるかわからない場所に出ていくよりも、その欲求によって施設を訪れることの方が、確実にファンは増えていくに違いありません。

年間1万人以上の人々が訪れる「しょうぶ学園」

魅力のある場所をめざしてきた「しょうぶ学園」には年間1万人以上の人々が訪れ、食事やショッピング、ギャラリーでの展示などを楽しんでいます。一方で、アートや福祉を含むさまざまな分野の人々が、1年に1000人以上も見学に訪れるそうです。「見学対応は職員にとって本業とも違って大変でもありますが、見学者との交流によって新しいアイデアが生まれることも少なくありません。見学対応も1つの事業として捉え、できる限り見学者を受け入れるようにしています」。見学者がデザイナーであればパッケージのデザインから作品の商品化が実現し、映画監督であればドキュメンタリー映画が撮られ、イベンタ―であればイベント出演のオファーが届くといった具合に、見学者との交流の中からさまざまなアイデアや活動が生まれ、表現のバリエーションが増えてきました。

自分が異業種の型を取り入れた方がいい

実は「しょうぶ学園」の職員は、福祉の分野で学んだり、活動したりしてきた人はそう多くないのだそう。「一時期は異業種の人たちを福祉の枠にはめ込もうとしていましたが、自分がその人たちの型を取り入れた方がいいことに気づきました。それからはすごく楽しいんですよね」。自身の価値観がいかに狭いかを意識し、脳内で訓練をして刷り込みを解くことを続けた結果、福森さんはこの考え方に至ったそうです。

ここを社会に!

「しょうぶ学園」から生まれるモノは、多くの人から支持され人気を集めています。けれど、先述したように彼らは評価されることを強く求めていません。そのような状況で福森さんや職員の皆さんは、作品に手を加えることを「エゴコラボ」と呼び、こちら側の都合でコラボしているという意識を共有しています。「私たちが準備したものに彼らが何かを加えるのは、労働に近く就労的作業になります。彼らが好きなように創作したものに私たちが技術を加えることの方が純粋だと思うんですよね。旬の食材をそのまま生で食べた方が美味しいというのが『作品』で、旬の食材に手を加えるのが『クラフト』とでも言いますか。私たちがしているのは“食材探し”に近くて、職員たちは自分の欲(エゴ)を認めた上で彼らの作品に関わっているのです」。

さまざまな表現・文化活動を発信するためのアムアホール

2019年9月、福森さんたちは「しょうぶ学園」から徒歩1分の場所に多機能型事業所「アムアの森」をオープンさせました。この施設を立ち上げたのは、これまで築いてきた「しょうぶ学園」の環境を、0歳から18歳の子どもたちにも提供したいと考えたことがきっかけなのだそう。施設内には児童発達支援事業や放課後等デイサービス事業の機能のほか、さまざまな表現・文化活動を発信するためのアムアホールも設けられています。

多機能型事業所「アムアの森」

2019年10月にはアムアホールの柿落としとなるライブが行なわれ、大盛況だったとか。アムアホールでさまざまな表現・文化活動を発信することによって、「しょうぶ学園」に行きたい!と思う人はさらに増えることでしょう。これからも「しょうぶ学園」の活動から目が離せません。

ありのままの自分でいられる場所を徹底して整えた

これまでに何度か「しょうぶ学園」訪れ、食事やショッピングを楽しんだことがあり、その度に「なんて居心地の良い場所なんだ」と感じ、心が健やかになっていきました。今回の取材を通して、その理由が少しわかったような気がします。福森さんたちは、ありのままの自分でいられる場所を徹底して整えてきました。それは「しょうぶ学園」に通う障害者たちにとっての場所づくりであったはずですが、この場所を訪れる全ての人にとって安心できる場所でもあったのです。福森さんが提唱する「施設を1つの社会にする」という考え方もあるということが、もっと広まっていけばいいなと感じました。

〈まなび〉「社会に出ていく」だけでなく
「来てもらえる社会を作る」というのも一つの方法。

しょうぶ学園

しょうぶ学園では、障がいを持つ人たちの感性あふれる創作の姿勢に魅せられ、芸術・音楽活動を中心に個性的な活動を行っています。工房を利用する人だけでなく、サポートに携わるスタッフも表現者という同じ立場で制作しながら「与えられる側」から「創り出す側」に立つことによって、障がい者、健常者の枠を取り払った対等な関係づくりを目指しています。そうした環境から生まれた作品は、クラフトやアートの世界から高く評価され、開催(出展)する展覧会は国内だけでなく、海外にもおよんでいます。2020年4月以降、新型コロナウィルス感染拡大防止のため店舗営業、見学、研修は当面の間休止中。

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