障害者とアートで仕事をするデザインスタジオ

どう働くかは、
自分で決める!PARTNER 07
ミナトマチファクトリー/長崎

ミナトマチファクトリーのご紹介

福岡市内でイベント制作会社を営んでいた石丸徹郎さんが、佐世保市内に福祉事業所を立ち上げたのは2011年のこと。きっかけは、引きこもりの方を対象とした支援事業を請け負ったことでした。引きこもりの方は障害があることも多く、石丸さんは生まれて初めて彼らと触れ合い、彼らの成長に喜びを感じたそうです。しかし、事業は約半年で終了。このまま終われない!と、会社を譲渡し、就労移行支援事業所「ホットライフ」を開設しました。現在は「ホットライフ」のほか、就労継続支援B型事業所「佐世保布小物製作所」、就労継続支援B型事業所アストルテ、就労継続支援B型事業所エルビレッジ、そして、今回ご紹介する就労継続支援B型事業所「ミナトマチファクトリー」の3つの施設を運営しています。

就労継続支援B型事業所 ミナトマチファクトリー

デザインの仕事をしたい

これまで福祉事業所で行なっていた就労は、箱折りや封入といった単純な作業が中心でした。「若い人たちが夢を持って働きたいという意欲があるにもかかわらず、そのような仕事しかできないことに疑問を持ち、夢を持って働ける仕事としてデザインを学べる環境を整えました。イラストを描いたり、名刺やチラシのデザインをしたり。デザイナーとして外部から受注する利用者が育ってきた中で、その方々が働けるオフィスがあったら楽しいだろうと考え、『ミナトマチファクトリー』を立ち上げたのです」と、石丸さんは当時を振り返ります。当初は地域のクリエイターも利用できるコワーキングスペースでしたが、利用者の増加に伴い、現在は利用者に限定しサービスを受けながら訓練の一環としてフリーランスのような働き方をしているのだそう。現在、この場所を拠点に活動をしている人は約20名。イラストを描いたり、看板を制作したりと、活動の幅は広がっていますが、なかでも商品デザインの依頼が多いそうです。商品デザインといっても、全てを一人で行なうわけではありません。イラストを描く人、ロゴを考える人、包装をする人、値段を貼る人……それぞれのやりたいこと、できることを活かした商品づくりに取り組んでいます。

ミナトマチファクトリーの立ち上げについて話す石丸さん

「私たちは、『ミナトマチファクトリー』を利用される方のことをスタッフ、私たち職員のことを支援員と呼んでいます。支援員とはいうものの、私たちは専門的にデザインを学んできたわけではありません。今はスタッフも支援員も、全員がクリエイターとして何かを生み出そうという共通のミッションのもとで活動をしています。だから、スタッフが考えた商品だけでなく、支援員が考えた商品もあります。私たちがスタッフを支えるという意識はなく、一緒にチャレンジしていける環境でありたいと、このようなスタイルの活動を行なっているのです」。

ミナトマチファクトリーで作業をするスタッフ達

「お金を使ってくれてうれしい!」

「ミナトマチファクトリー」から生まれる商品は、あえて“福祉”を謳っていません。というのも、福祉事業所の商品であることは一時的な瞬発力はあるかもしれないけれど、プロダクトとして勝負し通用するものでなければ、継続させ続けることは容易ではないと、石丸さんたちは考えるからです。

「百貨店さんから商品を卸して欲しいと依頼されると、福祉事業所で作っていることは依頼主に伝え理解していただきますが、それを売るための施策として表に出すことはありません」と、石丸さんは言います。“福祉事業所の商品だから”ではなく、商品力や技術力の高い“ミナトマチファクトリーの商品だから”、取引先は「ミナトマチファクトリー」に制作依頼や発注をするのです。

また、前段で述べたように、「ミナトマチファクトリー」で活動するスタッフは、最初から特殊な能力を持っていたわけではありません。たとえば、現在、イラストレーターとして活躍するmegumiさんの場合、当初は就労移行支援施設「ホットライフ」に、ワードやエクセルの資格を取得したいとやって来たそうです。「ホットライフ」でさまざまな作業に取り組んでいく中で、それまで取り組んだことのなかったイラストを描いてみたところ、そのイラストが商品化されたり、全国チェーンのコーヒーショップのポスターに採用されたりと、各方面から高い評価を受けるようになりました。

全国チェーンのコーヒーショップのポスターに採用されたmegumiさんのイラスト

「彼女は、自分にそのような才能があることを知りませんでした。自分のイラストが商品化され、さまざまな場所に陳列されているだけでも喜ばしいものですが、知らない人が大事なお金を使って商品を購入してくれることは何よりも嬉しいこと。そこに嘘はないですからね。彼女は今、自分にしかできない仕事に誇りを持ち、日々の活動に取り組んでいます」と、石丸さん。megumiさんは、イラストレーターとしてどれだけ多くの人に作品を見てもらっているのか、自分の商品の売れ行きはどうなのかなどを意識しながら活動することで、自分がそのフィールドに立てていることを実感し、やりがいを得ているのです。そんな、megumiさんたちが作った「ミナトマチファクトリー」の商品は、長崎県内外のさまざまな場所で販売されていますが、長崎県美術館のミュージアムショップには、常設の売り場が設けられています。

長崎県美術館のミュージアムショップにある常設の売り場

「売れ筋はツナグ・ファミリーさんとのコラボ商品であるカードケースです。長崎の風景をテーマにした作品を商品化したものですが、ショップのスタッフの方から『毎日、この商品だけを包んでいる気がします』と言っていただくほど売れているようで。うちのスタッフはこっそり、この売り場を見に行ったりもしているようです。お客様が商品を手に取り購入していく様子を見られることは、彼らにとって本当に嬉しいことなんですよね」。このような経験を通して、「ミナトマチファクトリー」のクリエイターたちは、仕事をすることの喜びを実感しているのです。

どう働くかを、自分で考える

私たちが仕事を選ぶとき、何を優先するかは人それぞれに異なります。「たくさん稼ぎたい」という人もいれば、「残業などはせず余暇を楽しみたい」という人もいるでしょう。それは、「ミナトマチファクトリー」で働く人たちも同じ。

「ここに来る人たちは、忙しい環境でスーパースターになる人もいれば、ゆっくりした環境で才能を伸ばす人もいます。どちらの場合も、自分に合った働き方を知ることで、能力は一気にアップするんですよね。自分がどのような人生を歩んでいきたいかを考えた上で、働き方としっかり向き合って欲しいと、私たちは考えています」と、石丸さん。障害のある人の中には、「働く」ことを脅迫されるように捉えている人も少なくないそうです。そのため、「ミナトマチファクトリー」では、利用をスタートする前に「自分が働くということは何を意味するのか」を考える時間を持つそうです。というのも、「働き方」は自分で選ぶものであり、どこで満足感を得るかを考えることで、自分に合った「働き方」に近づいていけるから。「本人と話すとき、私は意見をするけれど、強要はしません。以前は自分の価値観を押し付けることもありましたが、今は自分が選択した先に、どのようなことが起こるかを考えさせるようにしています。そういう意味で、ここで活動している人たちは、意欲のあるところからスタートして動いているんですよね。ここで自分に合った働き方が見つければ、最高ですよね」。

ミナトマチファクトリーで活動している人たちとの打ち合わせ風景

以前は「ホットライフ」のトレーニングを経て「ミナトマチファクトリー」で活動をスタートするケースが多かったものの、現在は最初から「ミナトマチファクトリー」で活動したいと訪れる方が増えているそうです。「働き方」の選択肢が増えることは、「生き方」の可能性が広がります。そして、石丸さんは、「今、福祉事業所、特に就労継続支援B型は運営が厳しくなってきています。そのような状況の中で、これからのミナトマチファクトリーは、ほかの事業所の商品をプロデュースするなど、力になれる存在になりたいと考えています。いい作品があれば、うちで商品化することもできますし、うちのやり方をどんどん真似していただいてもいいですし。ミナトマチファクトリーも佐世保布小物製作所も、もともとは私たちの商品をつくる工場というスタンスでしたが、次の段階として、ほかの福祉事業所の工場になることで、新たな役割が生まれると思っています」と、話してくれました。「ミナトマチファクトリー」の取り組みによって、一人でも多くの人々が夢を叶えられる、そんな社会になっていくことを期待しています。

〈まなび〉「たくさん稼ぎたい」「残業せずに余暇を楽しみたい」
働き方は人それぞれ。もちろん障害者にとっても。

ミナトマチファクトリー

ミナトマチファクトリーはイラスト、アートを生かした雑貨や、佐世保の観光を発信するお土産の商品デザイン、各種デザインなどを主に手掛けています。所属するメンバーが、商品の企画・開発から、デザイン、製造、販売促進まで役割を補完しながら一貫して行なっています。 企業のニーズに応じて、プロジェクトチームが編成されるなど自分の得意を発揮できる機会を創ることで、それぞれが活躍できる仕事作りに取り組んでいます。

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